天むすを徹底解剖!

■「めいふつ」の天むす 千寿(せんじゅ)

代表的な名古屋のおみやげ「天むす」

天むす 「名古屋の〈おみやげ〉でまず思いうかぶのは?」と聞かれて、誰もが名前をあげるのが「天むす」ではないだろうか。
名古屋の「ご当地グルメ」を語る上では、絶対にはずせない1品である。
手のひらにすっぽり収まるぐらいの「ひと口サイズ」の可愛いおむすびの中に、小エビの天ぷらが絶妙なアクセントとなっている「天むす」。
今やコンビニおにぎりのラインナップにも加わるほどの、メジャーな「おむすび」だと言える。

 その「天むす」の元祖と言われているのが、名古屋は大須に店をかまえる「めいふつ 天むす 千寿(せんじゅ)」である(「めいぶつ」ではなく「めいふつ」なのがミソ)。
創業30年の歴史を持つというという千寿、しかしその人気はいまだ衰え知らず。
なにせ、「天むすが何故ここまで全国区となったのか」という原因の一説に、こんな話がある。
ある時、ある芸能人が「千寿」を訪れ、その美味しさに感動。以降、名古屋を訪れる度に「千寿」で大量に天むすを購入し、あらゆる場所に配っている間に、全国的に有名になったと言うのである。
本当かどうかは分からないが、その実力が伺える話ではある。そんな話が出回るほどの「千寿」とは、いったいどんなお店なのだろうか。

「千寿」レポート 2010年3月某日

外観 訪れたのは、いまだ冬の肌寒さが残る3月初旬、時刻はAM10時。
地下鉄「上前津駅」より大津通を北へ少し歩くと、右に見えてくるのが「千寿」である。
小ぶりで質素な店構えからは、とても「全国的に有名なお店」という感じは受けない。注意して見ていなければ、そのまま通り過ぎてしまうほどである。

店内の様子 店内に入ると、10席ほどの飲食スペースに受け渡し用のカウンターがあるのみ。その奥では、3〜4人ほどの店員さんが、せっせと「天むす」を作り続けている。
「ほとんどのお客さんはお持ち帰りですから、店内の席はお昼しか解放してないんですよ」と店員さん。
なるほど、まだお昼前だと言うのに、先ほどから入れ替わり立ち代わりお客さんが訪れては「天むす」を購入していく。
中には、大きな紙袋2つ分も買って行く会社員らしき男性客もいる、取引先へのお土産なのだろうか。
しかし、おどろくべきはそのスピード。来店して1〜2分ほどですぐ「天むす」を受け取って帰って行くのだ。
店員さんが作ってカウンターへ置く、数分ですぐに売れる、また作る、すぐ売れる、面白いぐらいの素早いリズム。「できたて直売」といった感じなのである。

できたての天むす 「作り置きはいっさいしていません。〈できたて〉を食べて頂きたいので、賞味期限はその日の内に設定しています」
という事である。例えば10時に作ったものはその日の19時が賞味期限になっているのだとか。
メニューはもちろん天むすのみ。価格は五個包みで735円(税込み)から。
お客さんは皆、「五個入りね」とか「十個入りね」などと手慣れた様子で買って行く感じである。
「創業から約30年になりますが、調理法はいっさい変わっていません。10年ぶりに訪れたお客さんからも、〈昔と同じ味だねぇ〉と言ってもらえるんですよ。嬉しい事です」との事である。

13:20の様子 たまらず、五個入りを注文し、店内で頂く事にする。これがなんとも「旨い!」のひと言。
北陸産のコシヒカリを使っているというご飯は、もちろん炊きたてホヤホヤのツヤツヤ。しっかりと、ひと粒ひと粒が「立って」おり、もちもちの食感がたまらない。
そしてその中には、絶妙な塩味のきいた小エビの天ぷら。天然の小エビを使っているとあって「ぷちっ」としたなんとも嬉しい食感に、思わず頬がほころんでしまう。
使用する油は毎日油屋から仕入れ、営業が終わればその日の内に捨ててしまうと言うだけあって、「胃にもたれる」という事が、いっさい無いのだ。それら全体を、伊勢湾産の風味豊かな海苔で包んでいるという贅沢さ。
付け合わせは、栃木産無添加の「きゃらぶき(ふきの佃煮)」。甘辛い味が「おむすび」にどんぴしゃり!絶妙とはまさにこの事かと言いたくなってしまう。
あっという間に、すべて完食してしまった。

■老舗グルメのブランド力の構築は、変わらない味にある。

いつの時代も変わらぬ人気の秘密は、頑固なまでの「変わらない味」にある。
30年間、素材も調理法も同じ方法を貫く。感じたのはそんな、良い意味での「頑固さ」であった。
決して秘伝の調理法などがある訳ではなく、ただ使用する素材にとことん拘り、いつも変わらぬ味を提供する。
「五個入りで750円から」という価格は、確かに安くは無いだろう。だが、その価格に見合う手間と暇をきちんとかけている。だからこそ、一度に百個、二百個という単位で注文が来るのもざらであるという。
老舗らしい「拘りの詰まった」天むすの味、最早、「最強のご当地グルメ」と言っていいのでは…というほどの実力を感じてしまった。